◇『素晴らしき放浪者』(監督:ジャン・ルノワール,1932年,フランス)
宿無し男ブーデュは、可愛がっていた犬がどこかに行ってしまったり少女からお金を恵まれたりしたことに嫌気が差し――たのかどうだか分からないが――、橋の上から飛び込み自殺を決行する。それを双眼鏡で覗いていたのが古本屋を営む男。人が良い――そのくせメイドと浮気をしている――この古本屋店主は、急いで現場へと駆けつけブーデュを救出、自宅へ連れ帰り療養させ、その後も家に住まわせる。自由気ままに振るう舞うブーデュに、店主の妻やメイドは困り果てる。ついにはバルザックの本(『結婚の生理学』!)に唾を吐きかけたことに店主も怒り彼を追い出す決意をするが……。乱雑な食事のマナーや服装、妻やメイドにちょっかいを出すなどの振る舞いを悪びれずに行うブーデュは自由人なのだろうが、私などが見ていて感心するのは、やはりそれを何だかんだといって許容してしまう古本屋一家の方である。冒頭のシーンでブーデュが憩っているシーンや彼が飛び込む川、ラストにも出てくる川と木々など、美しい自然の風景が、街の喧騒と対照的だった。