井伏鱒二『遥拝隊長・本日休診』(新潮文庫)を読了。映画版『本日休診』は、どうやらここに収められている2編を併せてひとつの物語に作り直した作品だったようだ。「本日休診」は短い作品のわりに、結構な数の登場人物が入れ代わり立ち代わり出てくる。しかし窮屈だったり説明不足だったりという感じもないし、存在感もある。会話の端々に苦い過去や事件の経緯がうまく散りばめられていて、わざとらしさを感じることなく読者は表面には出てこない作品世界の広がりを知ることができる。新潮文庫の井伏作品がいろいろと品切れでがっかりだったが、古本屋を回ったら3冊ほどは直ぐに入手できた。あとは『集金旅行』が欲しい。