調子が悪くなったテレビを叩くと画像の乱れが直ってしまう。ファミコンのカセットの差込口に息を吹きかけてから入れるとさっきは映らなかったスタート画面が今度はきちんと表れる。この連作短編集を読んでいると、そんな一昔前の光景を思い出す。
実際に出てくる人は、ブラックボックスの中をしっかりと点検・修理する技術を持っている人たちではあるのだが、どこかに不十分なところや欠けたところ、クセを持ってしまっているところやスキがあって、機械と人力の境界領域を漂っているようなところがある。オートメーション化された社会にある温かい人間味。
思えば、たまに見かける回送電車に社会の隙間で機能するモノの美学を感じ、「回送電車主義宣言」(『回送電車』参照)なるものを打ち出したところにも、堀江敏幸の志向はしっかりと表れていた。