@早稲田大学図書館

潮田登久子写真展 Ushioda Tokuko PhotoExhibitions Biblioteca 本の景色
4階のラウンジでのちいさな展示会。テーブルには雑談をする学生の姿も。早稲田大学図書館の資料室、国立国会図書館の資料室、そして都内古書店A、の3つの場所にある書物をモノクロ写真で写している。修繕中の書籍はまるで舞台の上でスポットライトを浴びているかのように、輝いて見える。時間や手垢によって傷んだ本というのは、そこに経過した時間や手にした人の思いが堆積しているように思える。しかしそれと同時に、矛盾するようだが、紙、木といった即物的な側面、モノとしての本ということを意識させられた。

S氏の原始的な製本器具を備えた、これまた超原始的としか言いようのないアトリエへは、装釘用の革商人や金箔屋が注文取りによく来ていた。そしてやがて出来上がった本を手に取って眺めておられた。私も何冊かの本の製本をおねがいした。くすんだ赤い背革のモノ・ヘルツェン氏の「形態学」の本は殊に見事な出来栄えで、私は時折り、モノ氏の半世紀をかけて書き上げたこの密度の高い労作が、これまた半世紀の経験の果てに、このように慎ましい形に結晶したS氏の製本によって装釘された、深い重みのかかったその本を、今でもものというものの象徴のように、手にとって眺めるのである。                                               (森有正「雑木林の中の反省」)