高橋源一郎『平凡王』(角川文庫)
競馬、野球、テレビ、猫、マンガなど、著者の本を読む人にとってはお馴染みの素材についての、ときに脱力してときに真面目でときに感傷的な短文が集められている。読み応えのあったのはテレビを取り上げた一連の文章。「「勤くん」と「紀子ちゃん」」、「志村けんの逆襲」といった題名だけで気になるものも散見される。1989年に連続した大きな報道(昭和の終わりや天安門事件ほか)に対しての率直な感想も述べられている。

グレッグ・イーガン『しあわせの理由』(ハヤカワ文庫)
文系人間(正確には非理系人間)の私でもしっかりと味わえる作品群でした。味わい尽くせてはいないと思いますし、それにはやはり著者が用いる数学から医学、生化学、遺伝子、コンピュータまで幅広い科学知識があるに越したことはないのでしょうが。あたまに収録されている「適切な」、ラストに収められている表題作でもある「しあわせの理由」(ふたつとも下線は筆者)のタイトルが示しているように、人間の極めて本能的な部分にあるであろう感情(知覚?行為?)の自明性に、先端科学によって揺さぶりがかけられる。でもその先にあるのは混乱や絶望や不安や恐怖や逃避ではない。

森博嗣笑わない数学者』(講談社文庫)
謎解きは容易。「平成本格最大の問題作」と評していたのは、文庫版『冷たい密室と博士たち』の西澤保彦による解説だが。

◇西風『LAST MOMENT ②』(双葉社)
大島弓子『ロングロングケーキ』(白泉社文庫)