■
〇高橋源一郎『文学王』(集英社文庫)
外国の作家を紹介した章は、引用が長くて退屈だった。鮎川信夫、伊藤比呂美、藤井貞和、金子光晴らの現代詩人についての文章がとても面白かった。深夜番組「11PM」の中で行われた金子光晴とボクシング世界チャンピオンの輪島功一との対談、というのには驚かされた。バラエティ番組の本当の斬新さとはおそらくこういうものを指すのだろう。
〇高橋源一郎『文学じゃないかもしれない症候群』(朝日文庫)
〇佐藤雅彦・竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』(日経文庫)
〇保坂和志『もうひとつの季節』(中公文庫)
保坂和志の小説の台詞は、詩の様な改行がされている。彼の小説を読んで似ていると私が思うのは、橋本治、永井均、池田晶子の3人である。言葉の使い方、思考のプロセスを忠実に再現しようとする、ややくどい言葉遣い。
こんな説明ではまったく理屈にも何もなっていないことはよくわかっているけれど、一人の生身の人間が発散している雰囲気とか説得力というのはすごいもので、それを言語的な情報にすべて置き換えていったらとんでもなく膨大な量になる。
……こうして山の中を歩いていると、木の種類どころか、椿の葉の緑と宿り木の葉の緑と針葉樹の緑の違いだって、僕自身の色についての語彙の少なさということを越えて言葉ではカバーしきれないし、木の幹や枝の形となると人に伝えるどころか自分の憶えのためにだって言葉で明示できるなんて最初から思っていない。
そういえば、橋本治とは接点があったらしい。私が知っているのは『ぼくたちの近代史』のあとがきに、この本の元となった講演の企画立案者として保坂和志の名前が出てくる、これ一点のみだけど。ただ、『この人の閾』の中の一編「夢のあと」は、『近代史』のなかで橋本治が用いている「原っぱの論理」の小説バージョンなんじゃないのか、という感想を持っている。
〇日本橋ヨヲコ『日本橋ヨヲコ短編集 BASHISM』(講談社)
〇羽央『LOVE FILES』(近代映画社)
〇西風『LAST MOMENT ①』(双葉社)