以下ネタバレ気味(cf.A・クリスティの某小説/D・リンチの某映画)

舞城王太郎『暗闇の中で子供』(講談社ノベルス)
『煙か土』を未解決の謎、思わせぶりな挿話満載のまま読み終え、さて2作目では少しはスッキリするのかと思いきや、あにはからんや、混乱に拍車がかかりかねない。真相はどこに?
読んでいて気になったのは、橋本敬の死体、池の名前(てのひら池→魍魎ヶ池)。当然ここから2章と3章の間がターニングポイントだとは思った。ただこの気になり度が、読者を立ち止まらせるほどではなく、巧みにぼかされているのはさすが。(読んでいるときに引っかかった点がもう1つあって、それは8章で三郎がベンツで病院に向かうところ。385頁ではBMWになってしまってる。これは単なる作者のミスか。)ネットで検索すると3章以降を創作とする説多し。その根拠はやはり橋本の死体。他に手書きのイラストが挿入されていることも挙げられていた。
3章以降が創作ということなら、『アクロイド殺し』のような叙述トリックの範疇に入る。ただ、最近観た『マルホランド・ドライブ』にも似た、過去、記憶の隠蔽・改ざん、夢や願望、妄想、創作が入り混じった構成を持っていて、それらのどこを地面とするかが読者の意思に委ねられている点が、単なる叙述トリックとは違う。

奈津川家サーガというと、フォークナーや中上健次を連想してしまうが、私の印象は『ホテル・ニューハンプシャー』(小説のほう)。一人ひとりが突っ走ってしまっている家族の、とんでもない行動、ひどい惨事、でも温かい救い。映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』も好きだし、天才家族一家の話には弱い。