『非・バランス』(監督富樫森)

原作・映画ともに十二分に有名なのだろうが、ほとんど前知識を持っていなかった私。前知識を持たないで観るのもやはり楽しい。
オカマの菊ちゃんを演じる小日向文世がエクセレント。歌って良し、はしゃいで良し、自転車こいで良し、背中で語って良し、説教して良し。その存在感によって他の役者の人が潰れてしまっているかというと、決してそんなことはないのが巧いことできているなあ。
舞台になっている地方都市(たしか仙台)が、リアリティと美しさの両方を備えた映像として撮られているのも印象的。大きな川、そこに架かる橋、商店街のアーケード、菊ちゃんの働くスナック、チアキが万引きするデパート。
「クールに生きること」「友達を作らないこと」の2つのルールを持っていた少女は、菊ちゃんとの出会いによって、友情に熱く生きることを学びルールを破棄した、というわけではないと思う。だって、彼女(彼)はチアキに対して、弱音をはかない。それは大人が子どもに対する当然の態度かもしれない。しかしそうではないだろう。チアキを一人の対等な立場の友達と認めた上で、菊ちゃんは自分一人で問題を抱え続ける。これはすばらしい意味でクールだ。「これからはあなた自身が緑のおばさんになりなさい」という手紙に残された言葉。自分を救えるのは自分しかいない。そうした覚悟、自覚を持った上で、付き合っていける友達、成立する友情というものがあり得る。

*自殺未遂する同級生の病院での台詞。「飛び降りた瞬間にしまったと思った」という台詞が耳に残った。